アジア

ハジャン

ベトナム北部山岳地帯

54の民族からなるベトナム。なかでも最北部は民族の宝庫となっています。

ベトナム北部の山岳地帯、極めて西よりのサパ周辺は、かつてフランス人が避暑地としたことで有名ですが、さらにその奥地、中国・ラオスとの国境地帯には外国人が立ち入るのに特別な許可が必要な地域があります。最北部のハジャン省です。

ハジャン基本情報

中国雲南省やラオスとの国境に近く、一部の地域に立ち入るには特別な許可証の取得が必要です。滅多に観光客が訪れない地域のため、場所によっては写真やビデオ撮影が制限されます。山肌に装用に作られた広大な棚田は、9〜10月になると一面黄金色に染まり、美しい景観を楽しめます。

ベトナム北部山岳地帯出典:http://vovworld.vn

観光のベストシーズンは、北部では雨季に道路状態が悪くなるため、9月〜4月の乾季がおすすめです。

色とりどりの花が咲く市場

作物も満足に育たない石灰質のカルスト地形、歩くのも困難な急勾配の山の斜面。

この厳しい自然環境に低地から追われてきた少数民族が、今も日常的に民族衣装をまとい、昔ながらの伝統を守り暮らしています。訪れる観光客は多くなく、村々の民家をたずねれば、裏山で収穫した新茶でもてなしてくれたり、庭先で上流したてのお酒をふるまってくれたりと、あたたかいおもてなしで歓迎してくれます。子どもたちの笑顔も素敵です。

棚田 少数民族出典:https://blog.goo.ne.jp/
棚田 少数民族出典:https://blog.goo.ne.jp

少数民族の女性が結婚相手を探すためにおめかしをして出かけるという、週に一度の定期市へ向かうと、早朝にもかかわらず、市場は色とりどりの衣装を着た人でいっぱいです。皆、収穫した作物や縫い上げた衣類などを持ち寄っては楽しそうにおしゃべりをしています。どこの市場にも新鮮な野菜や果物、日曜雑貨などが並び、女性たちが衣装を作るための材料やスカート、スカーフ類も豊富です。中国製の衣類の流入により、男性はほとんど民族衣装を着なくなってしまいましたが、女性は皆昔ながらの衣装でおしゃれを楽しんでいます。

出典:http://rikutabi.com
定期市出典:http://www.phoenixtour.jp

集まる民族は市場により異なります。例えば、標高1800mの山里であるシンホーの市場では、赤い毛糸を束にして頭に巻き付けた赤モン族や、藍染めの布に細かい刺繍を施したズボンをはき、頭にターバンを何重にも巻いたザオカウ族に会うことができます。ドンバンの市場にはピンクや緑色のスカーフを頭に巻いた白モン族が、またミンタンの金曜市には、ランテン・ザオ族、ヌン族、白モン族が集います。

白モン族の女性出典:http://www.kaze-travel.co.jp

加えて、ランファンの水曜市に集まる花モン族の赤やピンの色鮮やかな衣装は、ため息が出るような美しさです。刺繍がたっぷり施された上着やスカートは、1kgもの重さがあるといいます。山々に囲まれ、ほんの少しの狭い空間に開かれた市場は、さまざまな種類の花が一斉に咲いたように華やいでいます。

刺繍に込める民族の誇り

この地方は1年に1回収穫を行う一毛作で、山間の狭い土地を有効活用するために、棚田や畑が山の上まで迫っています。中国製の農機具が入ってきている村も一部ありますが、多くの村では機会に頼らず、水牛と人による昔ながらの農作業を行っています。9・10月になると広大な棚田は一面黄金色に染まり、民族衣装を着た人々が作業する艶やかな姿を目にすることができます。収穫期の村は、市場の賑やかさとともに、特に活気に満ちています。

棚田出典:http://vovworld.vn
活気にあふれる棚田出典:http://www.mingei-okumura.com

サパ郊外では、機械を使わず手作業で脱穀をする、ランテン・ザオ族の女性がいます。彼女たちの衣装は、黒に赤やピンクの緑取りをつけ、銀飾りのスカーフを頭に巻くのが特徴です。黄金色の棚田のなかで、小さな子どもをおんぶして収穫にいそしむその姿は、ひときわ輝いて見えます。

出典:http://tabifoto.la.coocan.jp

北部ベトナムでは、特徴のあるさまざまな民族衣装が、女性たちを中心に今も普段着として活躍しています。民家の軒下や庭に干された洗濯物がそれを物語ります。刺繍がところ狭しと施されたプリーツスカートや、味わい深い藍染めの衣類などがざっくりと干されている光景は、どこか牧歌的でほほえましいものがあります。洗濯物でどの民族か判別できるのも面白いです。白いスカートが干されていれば白モン族の家で、色鮮やかな刺繍の衣装なら花モン族の家になります。加えて、農作業や家事の合間に衣装に刺繍を施している女性たちの姿も、ここではおなじみの光景です。動植物や幾何学模様をモチーフにした刺繍は気が遠くなるほどに繊細で、息を飲むほどに美しい。それらの伝統は、ひと針ずつ丁寧に紡がれる刺繍のごとく、母から子へ脈々と受け継がれています。