アフリカ

チャド

手付かずのまま残されたアフリカの中心部。

独特の地形や気候、悠久とした時の流れが、この地に類稀なる景観を築きました。

チャド基本情報

チャドの正式な国名は「チャド共和国」。公用語はアラビア語とフランス語です。

4月〜5月は酷暑期で、その後はしばらく雨期になるため、旅のベストシーズンは10月中旬〜3月になります。

首都のンジャメナを出発すると宿泊施設はないため、ほとんどがテント泊となります。個人旅行は難しく、ツアーに参加して観光するのが一般的です。

ティベスティ山地と砂漠の一部では、内戦中の地雷が残る場所があるため、十分な注意が必要です。朝晩は極度に冷え込むため、防寒着を準備しておく必要があります。

サハラ最深部 「エネディ」と「ティベスティ」

サハラ最後のワニ

チャド湖に注ぐシャーリ川とロゴネ川の合流地点にあるチャドの首都「ンジャメナ」は、川の対岸にカメルーンのクッセリを望み、地理的にもアフリカの中心に位置しています。

出典:http://mnhoppechad.weebly.com/

ここから北へ3日間車を飛ばし、辿り着くのが、サハラ最深部といえるエネディ山地やティベスティ山地です。BET(Borkou-Ennedi-Tibesti)と呼ばれるこの辺りは、堆積岩と火山岩が広がる岩山砂漠地帯です。砂丘の混ざる大地には、ナツメヤシの茂る小さな村が点在しています。

タッシリとは、風雨で新色された堆積岩の台地を意味するアラビア語で、サハラ砂漠にはタッシリ・ナジェール、アカクス、アルホッガーなどの巨大なタッシリがいくつか存在します。エネディ山地もその一つです。サハラ砂漠の中央に位置する堆積岩からなる岩山で、全ての面を砂によって侵食されたため、深い渓谷やワディ(涸れ川)、ゲルタ(湿地)などの独特の景観が生まれました。

渓谷アルシェイでは「サハラ最後のワニ」と呼ばれる、デザート・クロコダイルを見ることができます。これはサハラ砂漠やアフリカ北部に生息するナイル・クロコダイルの生き残りとされ、アルシェイのゲルタには現在7〜10匹ほどが生息しています。

出典:https://explore-chad.org

ナイル・クロコダイルというのは、1万年前まで続いた「緑のサハラ」の時代に、南アフリカ全域に広がったワニです。しかし気候の変化によって徐々に姿を消し、1996年にモーリタニアのタガント・ヒルで絶滅以降、サハラで生き残っているのはこの地域だけになってしまいました。本来であれば5mほどの大きさになりますが、限られた食べ物や遺伝の問題などから、ここでは1.5〜2mしか成長しないようです。古くからここに住んでいるトゥブ族の人々は、ゲルタからワニがいなくなると水が枯れると信じてきました。ここではワニが人やラクダを襲うことも、反対位人がワニを捕らえることも決してないそうです。

自然と調和する人の暮らし

一般的にサハラの壁画は古いものほど美しく、時代が新しくなるほど稚拙なものが多いと言われています。しかしチャドは例外で、馬の時代、ラクダの時代などの比較的新しい時代の壁画が、生き生きと表現されています。美しい色彩は、オークル(黄土)、岩石、卵、乳と、それらを保護するように塗られたアカシアの樹液から織りなされます。このように、四方を砂に囲まれたエネディ山地は、サハラの厳しい自然環境の中で、動植物や遊牧民、家畜たちのシェルター的な役割を果たしてきたことが壁画から読み取れます。砂岩の新色が生み出した唯一無二の景色と、そこに生きる人々の姿は、手付かずのサハラそのものといえるでしょう。

出典:https://www.responsibletravel.com

一方、ティベスティ山地はチャド北部にある休火山群の巨大な山塊です。チャドの最高峰のエミ・クーシ(標高3415m)、リビアの最高峰ビクー・ビティ(3376m)もここにあります。1998年以降の内戦と治安の悪化により、長い間閉ざされていたこの地は、2011年9月に訪問証が発行されるようになりました。

ティベスティ北部へのゲートとなる村ゴウロを出発し、北ティベラスの中心地バルダィへは、かつての内戦の地雷の跡を避けながら道を取り、厳しい岩山を進むルートです。途中、車窓にはニャラ(奇岩群)が広がり、溶岩流や火山岩でできた大地を走り抜けます。岩場に登ったかと思えばワディに下ることも繰り返す道のりは、水や草を求めて定期的にワディに下るラクダのキャラバンのために作られたものです。内戦後は、ワディに立ち寄らない車用の新しいルートもできつつあります。

クレーターの内部に広がる宇宙

世界に類をみないティベスティ山地の奇観を作り上げているのが、トゥシデ火山の麓に広がるトゥルー・オ・ナトロンと呼ばれる巨大クレーターです。火山の噴火により、空洞化したマグマ質が沈下したことで発生したといわれるクレーターは直径8km、深さ700mにも及びます。内部には小さな火山と炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)の泉があり、表面にミネラルを出し続けています。クレーターの内部へは徒歩で下ることができ、自然が作り出した神秘的な景色の中に身をおくことができます。

出典:https://epod.usra.edu

ティベスティ山地からンジャメナへ向かう方法はいくつかありますが、ジュララブ砂漠、バハル・エル・ガゼルを通るルートがおすすめです。草地の目立つバハル・エル・ガゼルは現在は砂地の目立つバハル・エル・ガゼルは現在は砂丘地帯になっていますが、かつてここには川が流れていました。付近を散策すれば、ダイアマイト、貝、魚の化石などが運良く見つかるかもしれません。ここまで来るとサハラは終わり、サヘル地帯へと入っていきます。またしばらく車を走らせると、家畜の姿が徐々に増え、砂漠の暮らしから水へと緑を抱く”チャド湖水系”の暮らしへと景色が移り変わっていきます。その先はもう、首都ンジャメナです。

出典:https://www.responsibletravel.com