アフリカ

タッシリ・ナジェール

アルジェリアのサハラ砂漠には、先史時代の「豊穣のサハラ」が描かれた岩絵が今も残っています。いくつもの時代に様々な岩絵が描かれていたようですが、それに込められた人々の真意とはいったいなんなのでしょうか。

タッシリ・ナジェール基本情報

タッシリ・ナジェール(国立公園)は、サハラ砂漠、アルジェリアとリビア国境に位置しています。幅60km、長さ800kmの園内には、大きいものは1000mを超えるものまで、大小さまざま奇石が点在しています。

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この国立公園には、数千年前にこの地に暮らしていた人々により描かれた太古の岩絵が今でも残っています。当時の日常生活や宗教観念がありのままに描かれたこれらの岩絵は、サハラに残る貴重な歴史的資料となっています。

アルジェリアを含むサハラ一帯には、遊牧民像のトゥアレグ族が暮らしています。

彼らの言語、タマシュク語で「水のある台地」という意味を持つタッシリ・ナジェールは、その名の通り、かつては水の豊かな地域でした。現在では砂の大地というイメージのサハラ砂漠ですが、かつては大河が流れ、緑が生い茂り、大型の哺乳類や淡水魚が生息していました。岩絵には牛、象、レイヨウなどが生き生きとしている姿や、素潜りで漁をする人々などが描かれおり、今の不毛な台地とはかけ離れた光景が広がっていたことがわかります。

それぞれの時代を表現する岩絵

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岩絵は、全てが同じ年代に描かれたものではありません。時代によって気候、風土は変わり、その時々に生きた人々が見る風景も移り変わっていきました。初期のタッシリ・ナジェールの岩絵を研究していたフランス人の考古学者アンリ・ロートによると、岩絵は絵柄によって大きく4つの時代に分けられているようです。

最も古いのが、紀元前6000年〜紀元前4000年の「狩猟の時代」です。サハラ砂漠に大型の野生動物が生息し、人間が野生動物の狩りをしていた時代です。

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紀元前4000年〜紀元前2000年の「牛の時代」では、サハラ砂漠に定住するようになった人間が家畜として牛を飼うようになり、牛が各家族の財産のように扱われるようになりました。

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続く紀元前2000年〜紀元前200年は「馬の時代」です。西アジアからサハラへ馬が入ってきた当時、一帯は樹木の生えないステップ(乾燥した草原)の植生に変わっていたことが、当時の岩絵から分かっています。戦争の際には、馬が戦車を引いていたとも言われているようです。

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そして、最後が紀元前200年以降のの「ラクダの時代」です。サハラが現在の”砂漠”の姿になり、ラクダに乗ってしか移動ができない時代に変わります。当時の絵には、タマシュク文字が一緒に書かれたものが残っています。

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岩絵に刻まれたメッセージ

岩絵には動物だけでなく、人間の姿も描かれています。タッシリ・ナジェールに残る巨人の絵は興味深いものがあります。両腕に力こぶのついたセファールの「白い巨人」は、仮面をつけて宗教行事を司ったシャーマンの姿と言われています。

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一方、数年で消えてしまうと危惧されているジャバレンの壁画には、角のない丸刈りの巨人の姿が描かれていて、こちらはまるで別の星の人間のような雰囲気を醸し出しています。

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どちらの巨人の絵もおそらく、強い力、神聖な力をもつ人として描かれたのだと思われます。また、仮面をかぶって素潜りをする「泳ぐ人」の絵は、トランス状態に陥って幽体離脱をするシャーマンの姿ともいわれています。

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さらに、タン・ズクマイタクにある円形の頭をした「円頭人」の岩絵は、現在の中央アフリカに暮らす人々と非常に似た体型をしています。体に傷を付け、瘢痕状にして素肌を装飾する姿も描かれており、この風習は今でもアフリカ中央部に暮らす民族に見られるそれと同じです。

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これらは、タッシリ・ナジェール一帯から緑がなくなるにつれ、北アフリカからアフリカ中央部へと民族が移動していったことを裏付けるものでもあります。

壁画見学の拠点となる町ジャネットの近郊には、大きな岩山に掘られた3頭の牛の岩刻画が残っています。顔の角度や角の形など、その芸術性は高く、牛の目からは涙が流れ落ちています。これは一説によると、かつては牛がたくさん暮らしていたにもかかわらず、過剰な放牧と乾燥により、土地を追われざるを得なくなったことを嘆いて描かれたものともいわれています。文字を持たない先人からの、後世へのメッセージといっても過言ではないでしょう。

渡航の際には十分注意してください

アルジェリアは近年観光客の受け入れを再開したばかりのため、車や宿泊施設等の設備が整っていないことが多いようです。また、イスラム教徒が多いため、女性は肌の露出に気をつけてください。長期にわたるキャンプ泊となるため、十分な水分補給や朝晩の冷え込みに備える必要があります。治安が安定していないので、渡航情報にも十分気をつけた方がよいでしょう。ビザの取得が困難な上、アクセスも非常に悪く、個人での渡航が難しい地域です。